ロックバンド「WANDS」には、これまで上杉昇(第1・2期)、和久二郎(第3期)、上原大史(第4・5期)の3人の歴代ボーカリストが在籍してきた。
そのため、初代ボーカルの上杉、2代目ボーカルの和久が歌っていた曲を、3代目ボーカルの上原が歌い継いできた場合もある。ヒット曲「世界が終るまでは…」(1994)や「明日もし君が壊れても」(1998)は、その例として挙げられるだろう。同じ曲ではあるが、歌い手は異なるため、3人の歌唱の違いが気になるファンもいるのではないだろうか。
そこで今回は、彼ら3人の歌を、これまで18年間にわたってボーカル分析に携わってきた筆者が、それぞれのWANDSの活動時期において比較してみようと思う。
3人に共通して言えることは、歌い方・声質が極めて似ているということだ。上杉の後任の和久・上原もそれぞれ、上杉の歌唱スタイルを継承していると言えるだろう。もちろん元来持ち合わせた天性の性質がなせることではあるが、WANDSのスタイルを正統に継承したいという真摯な想いがそのアプローチを可能にしている、とも言えるのではないだろうか。
3人の似ているポイントは、以下の通りだ。
・硬い性質のミドルホイスで、キーのトップがhiBあたり
・ヒーカップ唱法ぎみ
・鼻腔共鳴の比率が高い
・中音域のロングトーンで主にビブラートを聴かせる
BAAD、ZYYG、WAG、BREAKERZ、Naifu、dpsなどのボーカルがまさにこの系統の歌い方であり、B ZONE(旧・ビーイング)プロデュースアーティストの伝統のスタイルと言えるだろう。中高音域を力強く発声することができ、また切ない響きを得ることができる。
上記を踏まえて、各人の個性をさらに分析してみた。
上杉昇(第1・2期)【活動期間:1991年~96年】
鼻に響かせつつも喉の使い方に余裕があり、全体的に潤沢な響きが得られている印象だ。Aメロなどで沈む旋律では哀愁ある響きを、サビなどでの高音部分では伸びやかなハイトーンを、ロングトーンでは味わい深いビブラートを披露し、聴き手をあらゆるフレーズで魅了する。活動後期には、グランジ/オルタナロックに裏打ちされたディストーションボイスも繰り出した。
3人の中で最も全方位型で、発声の自由度が高く、リスナーの耳を響きで納得させられるボーカリストだと言えるだろう。
和久二郎(第3期)【活動期間:1997年~2000年】
声帯の張り感が強く、鼻への共鳴比率が高いのが特徴と感じられる。声色は、ほかの二人に比べれば若干明るい。中音域を真っ直ぐ張る歌唱を得意としている印象だ。
3人の中で最もポップな声質で、連続した高音域に対応し得るボーカリストだと言えるだろう。
上原大史(第4・5期)【活動期間:2019年~現在(23年時点)】
エッジが利いていて鼻にかかった響きが特徴。圧を入れたままのビブラートは、専売特許だと言えるだろう。上唇を閉じ気味で口の共鳴腔を狭くして発声していることもあり、落ち着いて切ない声色だが、声の圧が強い。ミクスチャーロックの系譜も採り入れた現代的なボーカリストとも言える。
3人の中で最も鋭い声が出せる、確固たる響きを持ったボーカリストだろう。
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